KAISEIブログ

 : 開星高校 令和3年度卒業式
 投稿日時: 2022/03/02


昨日、開星高校を卒業した115名が、元気よく巣立っていきました。私にとっては、開星高校で校長として送り出す、初めての卒業生です。式辞は山下美帆先生に伴奏をお願いし、生徒会長の永澤さんがフルートの美しい音を添えてくれました。そして、たくさんの素敵な写真を撮ってくれたのは、もちろん恩田先生です。


●式辞

この冬は冷え込みが厳しく、幾たびか白い雪を

かぶった学園坂の桜が、ほの紅いつぼみを

膨らませ始めました。あなたの卒業を祝福するような、

季節の移ろいを感じる今日の良き日。

ご来賓であるPTA会長の永原秀治様、

そして多くの保護者の皆さまに見守られて

卒業式を挙行できますこと、

教職員ともども深い感慨に包まれています。

卒業生の皆さん、おめでとう、よく頑張りましたね、

教職員を代表して心からお祝いいたします。

かくも成長したお子さまの姿に、

保護者の皆さまのお喜びも一入ではないでしょうか。

あなたがた百十五名が、この学び舎で積み重ねてきた

特別な経験を、次の舞台で大きく花開かせほしい。

私どもの、切なる願いです。


二〇一九年一二月三十一日、原因不明の肺炎が

報告されて以来、全世界の人が等しく、

新型コロナウイルスに悩まされてきました。

今年、就職や進学する人たちには「コロナ世代」という

表現を使います。人生の節目において、次の舞台へ

跳躍するための機会を著しく制限されてきたこと。

しかも高校生活の大半にわたり、あなた方は厳しい

制約を強いられてきたのです。

暑い日も寒い日もマスクをつけて学園坂を上り降りし、

仲間の表情を読み取るために、神経をすり減らした日々。

二年生の時、事前の準備までした研修旅行を、

あきらめざるを得なかったのは、実に気の毒でした。

しかし球技大会、文化祭は生徒会と実行委員などの

工夫と協力で開催。体育祭はコロナ禍の作品とは

思えない、壮大なデコレーションの前で、

白熱の競技を繰り広げましたね。

最高の見せ場を、保護者の方々に披露できなかった

無念こそあれ、忘れえぬ思い出になったことでしょう。

そんな不自由な中でも皆勤、精勤を続けた人。

帰っても気を抜かず、我慢を続けた野球部と

柔道部の寮生には、深く感謝と敬意を表します。

自粛疲れの仲間と励まし合い、クラスターも出さず、

皆でよくぞ耐え抜いた、そう思います。辛かった体験は

あなたの人生において、必ず大きな糧となるでしょう。


開星高校は全国にその名が知られた学校です。

もしかしたら、島根県では一番かもしれない。野球部、

柔道部、テニス部、新体操部、陸上部が、何度も何度も、

その名を天下に示してきたからです。

前年の大会が中止となり、三年生になったあなたは

「先輩たちの分まで」と、より厳しい練習を重ねてきた

ことでしょう。甲子園を目指して挑んだ野球部は、

事実上の決勝戦とか、島根県の球史に残ると言われた

試合を、二回戦で迎えなければならなかったのは

不運でした。灼熱のマウンドで力投を続ける投手陣に

応えようと、死にものぐるいで白球を追った、

開星ナインの姿。そんな彼らに、控えめな声で、

そのぶん大きな拍手と演奏を青空に響かせ、

共に汗と涙を流したスタンドの仲間たち。

皆の思いを、褐色に日焼けした後輩部員が確かに

受け止め、沸々と闘志を息づかせているはずです。

インターハイは、パソコン画面にかじりつき、私も

オンライン観戦をしました。試合ごとに、監督からの

解説がLINEで飛び込んできた、柔道個人・団体戦。

そのつど私は文字を打ち込み、長野県で戦う選手たちの

健闘を讃えました。格闘技の応援風景には、およそ

似つかわしくない、見た目静かなやりとりです。

一方で新体操は、ABCホールに部員と保護者、コーチ、

教員が集結しました。大スクリーンに映る華麗な選手の

姿に、湧き上がる歓声と拍手。固唾をのんで見守った

演技が終わると、一瞬の沈黙後、ホールが感動の涙に

包まれました。全国の場で競い合うことの価値、

その場に立つための、たゆまぬ努力と指導者の熱意。

すべてが開星スピリットを生み出す原動力で

あることを、深く感じ入った瞬間でした。

十二年連続、県大会で男女アベック優勝を果たした

テニス部も歓喜に沸きました。今年は難しいのでは

ないか。限られた部員数に危ぶむ声を、跳ね返しての

快挙です。試合中に涙が噴き出すほど、大きな

心理的重圧に耐えながらの、悲願達成と聞きました。

開星の伝統を繋いだのは、孤独な戦いに耐えてきた

陸上部も同様です。短距離は伝統のバトンを、

長距離は二十年ぶりに復活した駅伝の襷を、

次世代に引き渡してくれました。


サッカー、バスケットボール、女子バレーボールは、

私が本校で初めて臨んだ総体予選でした。

「強いぞ、開星イレブン ベスト四へ激走」と

「校長室だより」に書いた準々決勝。

「強豪相手に一歩もひるまず」という準決勝は、

悔しさをキーボードにたたきつけた試合の感想です。

スタンドに顔を並べたOBや教員の、起死回生の反撃を

祈る応援は、ピッチを駆け回り疲労困憊するイレブンに

とって、何よりの支えになったことでしょう。

「開星ファイブ、伸び伸びと」とは、バスケット部員の

溌溂とした戦いぶりです。初戦から混戦続きの接戦を

勝ち抜いて、ベスト八に進出。緊迫した局面も、

チーム一丸となって乗り越えた絆の強さ、

一体感が際立っていました。

一方、たった二人の三年生で戦い抜いた

女子バレーボールでしたが、何より最後までコートに

立った粘り強さ、忍耐力を讃えたい。いったん歴史が

途切れると、復活するのは並大抵ではありません。

おかげで後輩も踏み留まり、全国大会に出場した

先輩たちが指導者として戻ってきました。

「開星バレーの灯を、消してなるものか」。

二人の気迫と執念は、この体育館に脈々と

息づいていくはずです。


開星の多彩で個性的な持ち味は、文化部の活動にも

浸透しています。吹奏楽部、チアリーディング部、

コーラス部は、それぞれのコンクールや大会だけでなく、

校内行事でもきらきらした存在感を放っていました。

学校内外の観客が集まり、大喝采を浴びた

「だんだんコンサート」は、たくさんの新しい

開星ファンを生み出したことでしょう。

また中学、高校の新入生を、黒板アートであっと

言わせた美術部。消すのが惜しいという声を、

どれだけ聞いたでしょうか。

さらには学校活動の記録を撮り続けた写真部、

松江第一高校時代からの伝統を守る調理部や

茶道部など、間もなく百周年を迎える学校に

ふさわしい、多様性ある風土づくりに

彩りを添えてきました。

部活動をはじめ、皆で生き生きと育んできた

多彩な活動は、学園坂の桜やつつじのように、今後も

色とりどりの、素敵な花を咲かせ続けることでしょう。


さて二月に、ウクライナで軍事衝突が起きました。

卒業間際に、戦後最大の天災と人災に直面した、

あなた方世代の運命には、格別な励ましの言葉を

贈りたい気持ちです。

AIの発達により、人が万能に思える時代になっても、

厳しい自然と、悲しいけれど残酷な人間の存在は

なくならない。巨大な力の前に、自分一人の力では

動かしがたい現実に、私たちは無力感を覚えざるを

えません。しかし社会は強い人だけではなく、

しなやかで多様な個性を求めています。

あなたが歩む先には、必ずあなたを求める

場所があり、あなたを必要とする人が現われる

ことでしょう。弱ったり、傷ついたりして、

時にはあなたしかいたわったり、守る人がない場面に

遭遇するかもしれない。そんな時、たった一人でも

手を差し伸べ、支えになれる人になってほしい。

誰かの助けを必要とする人を、柔らかく包み込む

心くばり。世の中でたった一つ、あなただけが

伝えられる言葉、それこそが再び力強い

足取りで歩み始める勇気を授けることでしょう。

わが国は、人々が細やかな思いやりを交してきたから、

世界でもまれに見る、温かみのある風土が作られて

きました。開星高校はその中で、一世紀に及ぶ

伝統を繋ぎ、社会の隅々に、数多の人材を送り出して

きたのです。今日、歴史ある学び舎を巣立ち、

これから新しい出会いと経験を積んでいくあなたが、

社会の確かな礎となって、あなたにしか描けない、

希望に満ちた人生を歩み続けることを、

心から願っています。

最後に、お子さまを温かく見守り、

その成長を支えてこられた保護者の皆さま。

学校での活動を見ていただく機会が限られて

きましたこと、たいへん心苦しく思っています。

そうした中でも、PTA役員の皆さまには

学校活動へのご支援を賜り、

本当にありがとうございました。

改めて心からのお礼を申し上げ、

式辞とさせていただきます。

本日はおめでとうございました。

令和四年三月一日

開星高等学校 校長 水野 次郎

協力 永澤 瑠奈  山下 美帆