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 : 品性を基盤とした「学力」の育成(モラロジー教育No.140寄稿文)
 投稿日時: 2015/09/30

※本日の「ニュース&トピックス」にも同じ記事を掲載しています。

モラロジー教育No.140(編集・発行 公益財団法人モラロジー研究所)に寄稿した文章を掲載します。

本校の教育の基盤となる「道徳教育」の実践について、新たな学力観「つくる力・つながる力・もちこたえる力」を育む教育を通してご紹介します。

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※また画像の下に全文を掲載しています。

品性を基盤とした「学力」の育成
学校法人大多和学園 開星中学校・高等学校 理事長・校長 大多和聡宏

 本学園は、大正十三(一九二四)年に「松江ミシン裁縫女学院」として開校しました。まだ和裁が中心だった時代に、洋裁を教えるという先を見て先に行う教育(先見教育・先行教育)と、女性の社会参加が珍しい時代に、家庭人としてはもちろん、一人の人間としての品性を磨く道徳教育を二本柱として、本学園はスタートしました。

 大正、昭和、平成と歴史の変選の中で存続発展してこられたのは、「建学の精神」を大切にしてきたからだと思います。女子校から共学校へ、家庭科中心の教育課程から普通科の教育課程へ変容を遂げ、今日を迎えていますが、この九十一年間、本学園の教育理念は不変です。

 冒頭述べましたように「先見教育・先行教育」を大切にしています。そのためには、物事の本質や時代の流れを読み、不易と流行(変わらないものと変わるもの)を見極める必要があります。

 最近の中央教育審議会(中教審)の諮問や答申を参考に、これからの時代を考えてみます。まず、昨年(平成二十六年)十一月、中教審に小中高校の学習指導要領の改訂が諮問されました。通常より一年前倒しの諮問です。そして、従来は、学習内容の見直しが中心ですが、今回は、指導方法にまで踏み込む内容になっています。一方、昨年十二月には中教審の二つの答申が出ました。その一つは、高校教育、大学教育、そして大学入試、この三つを一体的に改革するためのものです。

 答申の冒頭で、次のように書かれています。「世の中の流れは大人が予想するよりもはるかに早く、将来は職業の在り方も様変わりしている可能性が高い。そうした変化の中で、これまでと同じ教育を続けているだけでは、これからの時代に通用する子供たちに育むことはできない」と述べられており、かなりの大胆な表現になっています。

 ここで、「将来は職業の在り方も様変わりしている可能性が高い」という根拠として、キャシー・デビッドソン氏(アメリカの大学教授)の予測、すなわち、2011年に小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就くだろうという予測を引用しています。

 この予測は、アメリカに限らず、世界各地で披紋を呼びました。実際に現在の日本でも、企業がイノベーションするたびに、業態の変化によって新しい職業が生まれ、既存の専門職を置き換えています。

 一方、現在の教育は、十九世紀末から基本的構造は変わっていません。大学で専門家を養成することを頂点として、必要な知識や技能を小学校から段階的に積み上げていくという仕組みです。しかし、職業が安定したものでなくなれば、教育のシステムも大きな変化を迫られることになります。前述の答申は、まさにこの問題意識がベースになっていると思います。

 現在、国内外のさまざまな団体が二十一世紀に生きていく子供たちに必要な一般的能力を整理し、「二十一世紀型スキル」と呼ばれるものを定義しています。これらは、今は存在しない職業に適した教育とは、どういう能力を育成すべきかを検討したものです。

 本校では、こうした「二十一世紀型スキル」を参考し、また本校の「建学の精神」である「品性の向上を図り、社会の発展に役立つ有望な人材を育成する」という教育理念の今日的位置づけを明確にするために、昨年、本校が育成する「学力」を定義しました。

 建学の精神に掲げている「品性の向上を図る」とは、道徳性を重視し、『よりよく生きる力』という人間力を育成することです。また、同じく建学の精神に掲げている「社会の発展に役立つ有望な人材」とは、現代社会における諸課題を発見し、その解決に至る道筋を考え、自ら行動できる能力を身に付けた人材と考えます。『よりよく生きる力』を育成することは、こうした現代社会に求められている能力をもった人材の輩出にも結びつきます。

 本校では、モラロジーの教育観を基本に置き、次のような考え方をしています。品性とは善を生む根本的な能力であり、知情意をはじめ、その他の諸能力に働きかけ、私たちの『よりよく生きる力』を発揮させます。その第一は『つくる力』、すなわち創造力です。私たちに与えられた能力をよく生かし、日々の仕事に励んだり、課題を解決する意思や知恵を生み、人生を開拓する力です。

 第二は『つながる力』、すなわち共生力です。自然や神仏など人聞をこえた存在と心をつなげる力、人を思いやり、助ける力、人と親密に交わる力、人と協力して集団の力を発揮させる力も品性によって与えられます。

 第三は『もちこたえる力』、すなわち忍耐力です。私たちは、人生の途上でさまざまな出来事に出あい、いろいろな困難や危機を経験します。そうした課題や危機に直面して、粘り強く対応しながら、もてる力を十分に発揮させる根本が品性です。

 そこで、本校が育成する「学力」を定義する際も、『よりよく生きる力』を構成する三つの力、『つくる力(創造力)』『つながる力(共生力)』『もちこたえる力(忍耐力』に基づいて定めました。

 『つくる力(創造力)』の育成とは、物事を思考する際に、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングといった深い洞察性を持つと共に、考えたことを実行に移す決断力を兼ね備えるように育てることです。

 『つながる力(共生力)』の育成とは、対等な立場で、誰とでも話し合ったり、協力して働くことができるための言語力やプレゼンテーション能力を持って、リーダーシップが発揮できるように育てることです。

 『もちこたえる力(忍耐力)』の育成とは、規律性を核とする自己管理能力であり、計画性のある学習をすると共に、失敗も含め、経験を反復することによって環境に適応した行動を習得できるように育てることです。

 本校は、平成二十五年度より文部科学省よりスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けています。その研究開発課題は、「道徳観を備えた科学系人材を育成する中高一貫教育課程の開発」です。現在、SSHの指定校は全国で二百校余りありますが、研究開発課題に「道徳」を掲げているのは、本校のみです。知育と徳育の融合は、「言うは易し、行うは難し」ですが、試行錯誤しながら取り組んでいるところです。

 日本の将来を考えた時、国際的に活躍しうる科学系人材の育成は喫緊の課題ですが、同時に高い志や公共心をもった若者を輩出することも、極めて重要であると考えます。その際、道徳教育を基盤として人格(人間性)を高めることが、人材育成の要諦であることをより多くの関係者に理解していただけるように、本学園のSSHをはじめとする教育実践をさらに推進していきます。
【モラロジー教育No.140(編集・発行 公益財団法人モラロジー研究所)より】