KAISEIブログ

 : 開星高校第68期生・卒業証書授与式
 投稿日時: 2023/03/02

昨日は、ひと足早く春がやってきたような日和りでしたが、本校では予定通り開星高校第68期生・卒業証書授与式を挙行いたしました。

●式辞

このところ穏やかな気候が続き、山陰にも春の足音が聞こえ始めました。松江の桜は、あなたの卒業を待っていたように蕾を膨らませ、宍道湖が柔らかな花の色に包まれる日も、もう間もなくです。季節の移ろいを仄かに感じる今日の良き日。ご来賓のPTA副会長・百合澤功様はじめ、保護者の皆さまに見守られて、卒業式を挙行できますこと、教職員ともども深い感慨を抱いています。

開星高等学校第六十八期生の皆さん、卒業おめでとう。またご列席された保護者の皆さまには、重ねてお祝い申し上げます。入学式から三年の月日を経て、かくも成長したお子さまの姿に、お慶びもひとしおのことでしょう。あなたは世界史上、例のない天災と人災が襲った時期に人生で最も多感な高校時代を過ごしました。よくぞ三年間、あるいは六年間、学園坂を上り続け この日を迎えられたものだと、その逞しさを賛えます。高校在学中は、見えないウイルスに脅かされた日々でしたが、あなたは辛抱強く、耐えました。

入学式を終え、たちまち自宅学習に入り、仲間の顔を覚える間もありませんでしたね。最初に取り組んだ高校の勉強は、先生方から送られてきた課題であり、初めて受けた授業は五月二十五日のことでした。普通に過ごすだけでも息苦しい、マスク着用。教室で控えめに言葉を交わす様子や、 激しい部活動の最中にも、マスクを手放すことができなかった不自由。そうして神経をすり減らして打ち込む練習風景を思い出すにつれ、伸び伸びと生活させてあげられなかった無念が胸を塞ぎます。

仲間と励まし合い、それぞれの我慢と工夫で乗り越えやり切った時間には、格別の重みがあるでしょう。忍耐を重ねつつも、部活動では多くの成果をあげ、大舞台で堂々と開星の名を知らしめました。前身の松江家政学園、松江第一高校時代から脈々と続く開星の伝統は、さらに大きな存在感を  打ち出し、厚みを増しています。そのような活力に満ちた開星の魅力を、生徒会は積極的に発信し、新年度に多くの新しい仲間がまた、学園坂を上ることになるでしょう。迎え入れる施設は、地震で傾いた一階教室の窓や、古びたトイレが改修され、鍵付きロッカーの新設。全教室のLED化や体育館のエアコン導入と、次々に環境整備が進んできました。来年、百周年を迎える学園に、島根県で最先端の設備が整いつつあるのも、あなたがたの努力の賜物であるのは言うまでもありません。世界史上、例のない時期に集った第六十八期生は、九十九年の開星史上で特別な卒業生となりました。

さて一年前、世界を揺るがせたウクライナ問題は、二十一世紀にこのような戦乱が起きるのかと、私たちに恐怖と怒りをもたらしました。新型コロナ問題とともに、今なお霧が晴れる見通しは ついていません。もうしばらく、手探りをしながら進んでいく時間が続きますが、それゆえあなたには、卒業にあたって「希望」という言葉を贈ります。今の世界は、例えてみると「パンドラの箱」を開けてしまった景色と言えるでしょうか。パンドラの箱の語源はギリシャ神話にあります。最高の神ゼウスが、あらゆる不幸や災いが入った箱を、地上最初の女性であるパンドラに渡し「絶対に開けてはならない」と命じます。しかしパンドラは好奇心から箱を開けてしまい、中から疫病、犯罪、悲しみなど、ありとあらゆる災いが飛び出しました。パンドラはすぐに蓋をしたのですが、箱には「希望」だけがとり残されたのです。この神話からパンドラの箱は「触れてはいけないもの」「実行してはならない行い」の例えに使われるようになりました。

ところがこの神話を前向きにとらえると「人間の手元には、希望が残った」という解釈ができます。いかに良くないことや困難があっても、人間はいい方向に転ずる希望。その兆しを感じ取れれば、前向きに生きていけるということです。今の時代はまさにパンドラの箱がこじ開けられ、災難や不幸があふれ出している状態かもしれません。だからこそ、希望を引き出すきっかけを作り、周囲の人や社会へ希望を示す人の存在が、これまで以上に求められているのではないでしょうか。

そう思うと、この三年間、あなたが堪えてきたことの意味が、鮮やかに浮かび上がってきます。困難に襲われても、決して希望を失わず三年の日々を開星高校で過ごしてきた。この経験は、これから出会うさまざまな場面で、力を発揮するに違いありません。成人を迎える時期に、数々の試練に出会い、体験したあなたがたは、まさに「パンドラ世代」と言っても良いでしょう。それは希望を取り出すきっかけをつくる人として、重要な役割を託されたということ。その不思議な運命を背に負い、箱の底に潜む希望の存在を信じて、力強く歩んでいってください。

最後に、黒人で初めてアメリカ大統領になったバラク・オバマさんの妻、ミシェル・オバマさんの言葉を紹介して、式辞の結びといたします。「いつでも快適な生活を送れるわけではないだろうし、世界中のすべての問題を一挙に解決できるわけでも ありませんが、自分が持ち得る重要性は、決して過小評価してはなりません。なぜなら、勇気は人から人に広がるものであり、希望はひとつのかたちになりうるものだと、歴史が示しているからです」「勇気は人から人に広がるものであり、希望はひとつのかたちになりうるものだと、歴史が示しているからです」。

黒人でも大統領になれるという形を示し、世界を感動に包み込んだオバマ氏。妻・ミシェルさんも、アメリカ合衆国史上初めてのアフリカ系アメリカ人のファーストレディーとして、多くの人たちに希望をもたらしました。あなたがこれから進む新しい舞台で、勇気と希望を 授ける存在として、輝きを放つことを願います。最後に、お子さまを温かく見守り、その成長を支えてこられた保護者の皆さま。学校での活動を見ていただく機会が限られてきましたこと、たいへん心苦しく思っています。そうした中でも、PTA役員の皆さまをはじめ、学校活動へのご理解とご支援を賜り、本当にありがとうございました。改めて心からのお礼を申し上げ、式辞とさせていただきます。本日はおめでとうございました。

令和五年三月一日

開星高等学校 校長 水野 次郎

伴奏   山下 美帆