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 : 【卒業生保護者の皆様へ】卒業証書授与式の変更について(お詫び)
 投稿日時: 2020/03/01

 本日は、お子様が本校で高等学校の課程を修了され、ご卒業の日を迎えられましたことを心よりお喜びを申し上げます。また、今日まで本校の教育にご理解とご協力をいただき、ありがとうございました。改めて感謝申し上げます。
 さて、一昨日(2月28日)付けの文書にて、標記のご案内をさせていただきましたが、今年度の卒業証書授与式が例年とは異なる形式となりましたことをお詫び申し上げます。先日来、報道されていますように、2月下旬から3月中旬までが、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ重要な時期であると政府から発表されておりましたが、2月27日には、全国一斉の臨時休業の要請がありました。それを受け、文部科学省より、卒業式の実施にあたっても、必要最小限の人数に限って行うように要請がありました。卒業式については、文部科学省より、それ以前より感染拡大防止の検討が求められていましたが、さらに踏み込んだ内容でした。
 このような過去に経験がない状況ですので、卒業式の実施にあたっては、かけがえのない行事ではありますが、今回は、最初から各クラスで担任より卒業証書を授与する形にさせていただきました。また、式辞等につきましても、文書にまとめ、お子様に配布させていただきましたので、各ご家庭で一緒にお読みください。
お子様が、本校の卒業生として、本校の校名「開星」の由来の如く、社会の発展に役立つ有望な人材に成長されることと、保護者の皆様の今後益々のご健勝を祈念致しております。
  

【令和元年度 開星高等学校 卒業証書授与式 校長式辞】

 3年生の皆さん、卒業おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。皆さんは、令和最初の卒業生です。新元号「令和」は、史上初めて、日本の古典から引用されました。それまでの元号はすべて中国の古典から取られてきました。たとえば、「平成」は、『史記』および『書経』が出典とされています。これに対して、「令和」は、『万葉集』が出典です。古代から現在に至る日本の歴史の連続性、それを象徴するのが天皇というご存在ですから、1200年以上前の日本の文章を出典にしたことは、126代連綿と続く歴代天皇のご系列に相応しい元号であると思います。そして、この『万葉集』には、天皇や貴族たちの歌も収められていますが、防人などの兵士や地方の農民の歌、さらには作者未詳の歌もたくさん収められています。こうしたいろいろな立場の人の作品が取り上げられてところに出典を求めることは、皇室をはじめとする日本の伝統に改めて思いを馳せる良い機会になったと思います。
新しい「令和」の時代、そしてその記念すべきタイミングで高校を卒業し、新たな世界に飛躍していかれる皆さんに、一冊の本を紹介します。今からちょうど120年前、1900年にアメリカで出版された『Bushido : The Soul of Japan(武士道:日本の魂)』です。
 著者の新渡戸稲造は、幕末に岩手県で生まれ、明治時代にアメリカ、ドイツに留学し学問を修め博士号も取得し、国際連盟の初代事務次長にもなった国際的日本人でした。また、この著作の後のことですが、昭和初期、日本が戦争に突き進む中、「非戦」の精神を唱え、軍部やメディアから睨まれた平和主義者でありました。
 新渡戸博士がドイツに留学した時、ベルギー人の法学者から、「日本には宗教教育がないのに、どうやって道徳を教えるのか」と質問されたことが、執筆のきっかけでした。日本にはキリスト教教育に匹敵する道徳教育の系統がある。それが武士道であることを、ヨーロッパの歴史や文学から共通する例を取り出して論証しています。また、博士の夫人はアメリカ人でしたから、彼女に日本の価値観や美意識をわかりやすく伝えるための執筆でもありました。
 1900年と言えば、その5年前に日清戦争があり、日本は世界の列強の仲間入りを果たした頃です。それまで欧米諸国から武士という野蛮な文化を持った国と思われていた日本が、欧米列強という目標に向けて国力を高めていった姿に、一体あの国のどこにすごいパワーが隠されているのか、各国は注目しました。
 その疑問に答を出したのが、新渡戸稲造博士の『武士道』でありました。そこには、一言でいえば、次のように書かれています。「日本は、野蛮な文化をもった国ではない。武士の時代に培ってきた精神こそ、日本の道徳理念であり、国民の力の源なのだ。」
 この本は、たちまち世界的なベストセラーになりました。出版から4年後、1904年には、日露戦争がはじまりますが、翌年、日本がロシアを破ると、世界中で『武士道』はさらに注目されました。この講和条約を仲介したセオドア・ルーズベルト米大統領が、『武士道』の愛読者であったことはよく知られています。
 第二次世界大戦後、「武士道=軍国主義」という短絡的な見方が支配的になり、世界が注目した『武士道』に書かれていることを切り捨てられてしまっている現状を考え直してみる必要があると思います。
 新渡戸稲造著『武士道』には、私たちが忘れてならない日本人の心が書かれています。「令和」の新時代にそのことを考えてみる必要があります。武士道が葬られたはずの第二次世界大戦後にあって、焼け野原から世界トップの経済大国にのし上がった要因として、名誉を重んじ、一致団結して「正しいこと」を貫いていく姿勢、そして己の利益より全体の利益を重視して実行していく態度を、海外からは「日本的経営」としてもてはやされた時代もありました。まさに、こうした態度は武士道そのものです。「古臭い教え」と考えられつつも、この国が豊かな国として成長し、経済大国として君臨するのに、明らかに武士道の精神が寄与してきたように思われます。
 その後、日本は「成長期」から「成熟期」に入っています。すでに多くの日本企業がナンバーワンの地位から低迷し、アジア諸国の企業にその地位を奪われています。国際的な評判にしても、いつしか「あきらめの早い国民」という傾向も目立ち、企業で働く人たちにも「打たれ弱さ」が見られます。新渡戸博士が『武士道』の中で述べていた日本の特質は残っているでしょうか。
 著書には、次のような一節があります。「何年もの年が流れ、武士道の習慣が葬り去られ、その名さえ忘れられる日がきても、その香りは空中で漂っています。私たちは、はるか遠くの見えない丘から漂ってくる、その爽やかな香りを、いつでもかぐことができるのです。」
 ずっと以前になくなってしまったかに思われた「遠くの見えない丘から漂ってくる武士道の香り」、それが新渡戸博士の書き残した日本人の遺産であると思います。「令和」の時代を迎え、その遺産を不死鳥のように蘇らせる必要があるのではないでしょうか。
卒業生の皆さん、新渡戸博士が『武士道』で書かれたことは、120年後の現代社会においても多いに役に立つ内容であると考えます。「令和」が始まり、その新しい時代をよりよい時代にしようとする思いが皆さんの心の底にあれば、これから歩んでいく道は様々であっても、皆さん一人一人が光り輝く未来への道先案内人になることができると思います。
 新渡戸博士が、日本の近代化に貢献することを自らの使命と考えられていたように、卒業生の皆さんが、本校の校名「開星」の由来の如く、社会の発展に役立つ有望な人材に成長されることを祈念しています。
 最後になりましたが、卒業生の保護者の皆様には、6年間、あるいは3年間、本校の教育にご理解ご協力をいただきましたことに深く感謝申し上げます。

令和2年3月1日 開星高等学校 校長 大多和 聡宏